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東京高等裁判所 平成6年(行ケ)80号 判決 1996年3月29日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

理由

一  請求原因1ないし3項の事実は当事者間に争いがない。

二  まず、原告が本件審決の認定した事実がこれを立証する実質的な証拠を欠くものであることの根拠として挙げる点について順次判断する。

1  本件基本合意の主体と合意内容とが矛盾するとの主張について

原告は、暗黙の本件基本合意が成立したとの本件審決の認定について、その合意を成立させた主体と合意内容に食い違いがあると指摘するけれども、本件審決が認定するのは、かぶと会会員となった一〇社間には、同会の設立準備の過程において、遅くとも同会設立の日である昭和五六年三月一日直前までには本件基本合意が成立し、その後、大興電子及び富士通ビジネスの二社が、それぞれ本件基本合意の趣旨を理解して、同会に参加し、以後受注予定者を決める話合いに加わったという事実であって、予め将来参加する事業者のことを予定して本件基本合意を成立させたとも、あるいは右の二者が参加するようになって初めて本件基本合意が成立したとも認定するものではないから、この間になんら理由の不備、矛盾はない。もっとも、新たに他の参加者が加わることによって当初の合意の趣旨が変わることも考えられないではなく、その場合には新たな合意として別途証拠によりこれを認定する必要があることはいうまでもないが、本件においては、右の二社が本件基本合意の趣旨とは別の思惑をもって話合いに参加したなど、当初の合意の趣旨が変わり、新たな合意が成立したことを窺わせる事情を認めるべき証拠はない。

原告は、昭和五八年の三沢基地物件に関する話合いにはかぶと会会員でない大和電設が加わっていたから、右話合いに新たに加わった富士通ビジネスが本件基本合意の存在を了解できたはずがないと主張するが、大和電設を除外して富士通ビジネスのみに対して本件基本合意の存在を伝え、これへの参加を勧誘する機会がなかったとは到底考えられないから、右主張は理由がない。

そして、大興電子が昭和五七年一〇月ころ、富士通ビジネスが昭和五八年一一月ころ、それぞれかぶと会に入会し、以後契約センター発注物件の受注予定者決定に関し他の会員と同様の行動をとったことは、《証拠略》により十分に認められる。原告は、査第八五号証の述べるところが審査官から押しつけられた見解であるようにいうけれども、同調書は、富士通ビジネスの社員である杉村が、三沢基地の現場説明会に同行した他の業者の担当者から「何だ、かぶと会を知らなかったのか」と言われたとか、親会社の者にも入会をすすめたところ、逆に業種が異なってだめだと言われたとか詳細な点にわたっており、かぶと会の趣旨目的についてすぐに理解したとの供述部分が審査官の見解の押しつけによるものであると疑わせるような点は認められない。

2  本件基本合意を推認し得る事実の存否について

注文者が競争入札等の競争的方法によって請負人を決定しようとしている場合において、その注文に係る工事又は役務等の取引分野に属する請負業者が、その受注をするに当たり、受注予定者を協議して定める旨の合意をし、又はかかる合意とともに、受注予定者とならない者は受注予定者が受注できるように入札価格等の点で協力することを約する旨の合意をすること(いわゆる受注調整カルテル)は、独占禁止法二条六項、三条、七条の二第一項にいう不当な取引制限に該当する共同行為というべきである。そして、特定の注文者が継続的に発注する工事又は役務等につき、その取引分野に属する請負業者が、受注予定者を協議して定める旨の抽象的・包括的な内容の協定をするとともに、個々の工事又は役務等の受注に当たって、右の協定に基づいて別途協議をして特定の受注予定者を定める旨を約することは、右の抽象的・包括的な内容の協定のみによっては、特定の受注予定者が直ちに定まるものではなく、また、個々の工事又は役務等の受注に当たっての協議において、特定の受注予定者を決定することのできないことがあり得ることを考慮しても、なお右のような目的をもって受注を希望する者の間で話合いをすること自体に相当な競争を制限する効果があるというべきであるから、当該協定は、前記合意に該当するものと解すべきである。

イ  かぶと会設立の経緯、目的

原告は、かぶと会が設立された経緯について本件審決の認定した事実は、本件基本合意が暗黙裡に成立したことを推認させるような実質を有せず、また、証拠を欠くものである旨主張する。

しかし、《証拠略》によれば、契約センターは、昭和五五年以前から、その電気通信施設(電話回線設備及びマイクロウエーブ通信設備)の通用保守業務を発注するに当たり、アメリカ合衆国連邦法の定めるところにより、初回入札を行い、入札者の中から入札価格が低く、受注適性が比較的高いと思われる者二、三名を選定し、それぞれについて入札価格の積算根拠の監査及び個別的な価格交渉を行った上、再度入札価格を呈示させて、最も低い価格で入札した者に発注する方法(以下「ネゴシエーション方式」という。)をとっていたこと、一級九社のうち大明電話は昭和五〇年ころから契約センター発注物件のうち横田基地の電話回線設備の運用保守業務を受注していたが、その他の各社も、従来の主要な受注先であった電電公社からの発注の減少が予想された折から、他の方面にも広く顧客を求めたいという希望を有し、昭和五五年一二月までにはいずれも契約センターに対し受注業者としての登録を終えていたところ、このような気運を見て、同月ころ池野通建の増川が、それまで日電インテクがほとんど独占的に受注していた契約センター発注物件に係る市場に参入し、いささかでも事業拡大に資することを考えて他の各社に呼びかけたのに応じて意見交換を行い、将来を見越して日電インテクを同じテーブルに着かせた上で、受注予定者を話合いによって決めるという実績を積み重ねて行く方針を採ることとしたこと、他方、日電インテクも、それまで競争することなく受注してきたが、新たに契約センターが実質的な競争関係の下に受注者を決定する方針を徹底させようとしていた折でもあり、一級九社の右の意向を察知して、無益な競争により受注価格を低下させる結果となることを避けたいと考えていたこと、このように各社の思惑が合致した結果、各社の受注に関する意思疎通を円滑にし、かつ、各社担当者の親睦を図る目的でかぶと会が設立されたものであることを認めることができる。

もっとも、かぶと会そのものの会合において本件基本合意が成立したものと認めるに足りる証拠はなく、また、個々の物件の受注予定者決定のための話合いについては、そのような話合いを発議する者が同会の役員ではなかったこと、個々の話合いに参加するのは、当該物件に関心のある業者のみで、同会の会員全員ではなかったことに加え、これら会合の費用は原則として受注予定者に決まった業者が負担していたことなどからみて、これを同会そのものの会合とみるべきものとは思われないが、前記のような同会設立の経緯に加えて、同会の発足後に個々の契約センター物件の受注についての話合いないしその前段階としての受注意思の事前打診や受注予定者に対する初回入札以後の段階での協力がなされるようになり、同会解散後はこれらが行われなくなったこと及び右話合い等が原則として同会会員の間でされていたことに照らせば、同会の設立目的が前記のようなもので、その設立は本件基本合意の成立を認定する上で有力な間接事実であるということができ、このことと、同会が親睦的な性質を有することとはなんら矛盾するものではない。

なお、《証拠略》によれば、一級九社のうち三和大栄については、将来においても果して自ら受注する意欲を有していたのかどうか明確でなく、付合いとしてかぶと会に参加したにすぎないともみられるが、右は同社の内部事情の問題であり、対外的には同社も他の各社と同一歩調をとって行動していたのであるから、右の点から直ちに同社の立場を他の各社と異なるものとみるのは相当でない。 参考人内田源也、同原田洋雄、同増川重雄、同冨山浩邦の審判手続における供述中には、かぶと会設立の目的がもっぱら会員相互の親睦にあるとか、従前作成された供述調書中の会設立の趣旨等に関わる部分は真意を伝えていないとかいう部分があるが、これについての当裁判所の判断は、本件審決の判断(審決案二四頁、二五頁)と同じであり、審判手続における前記各供述はにわかに採用することができない。

原告はまた、日電インテクと他の一級九社のそれまでの受注実績からして、受注に関し、右各社の間に増川の考えたような貸し借りの関係が成立する余地はないと主張するけれども、《証拠略》によれば、一級九社側の者は、競争入札となれば、結局入札額が相対的に低くなる傾向を招き、やがて業者全体にとっても好ましくない事態に至るおそれがあるが、そのことはとりもなおさず、日電インテクにとっても、受注に成功したところで相当に低い額で請け負わざるを得ないことを意味するから、同社もこのような事態を避けたい考えであるに違いないと判断しており、話合いの実績を作ることによって同社に利益を与えておき、いずれは見返りを得ることができると期待したこと、同社の側も、話合いに応ずることで円満に受注することができ、相応の差益を取得できると考えたことが認められる。また、《証拠略》によれば、かぶと会会員の各社は話合いによって受注予定者を決定する方式を繰り返してきたものの、結果的には昭和五七年以降の横田基地物件(大明電話)、昭和五六年以降の横須賀・横浜基地物件(原告)以外はすべて日電インテクが受注していたため、次第に受注実績のない会員の中から、これら会員にもなんらかの形で仕事が得られるようにして貰いたいとの不満が出るようになったこと、同社としても、当面は独占的受注を継続することができるであろうが、いずれは他社から受注予定者を自分たちにも回してくれとの要求が出てくるであろうと予想していたことが認められ、このことは、話合いを始めるに当たって、参加者が受注協力に対する実質的な見返りを具体的に期待していたことを示すものであり、日電インテクと一級九社との間でその点について著しく理解を異にしたことを窺わせる証拠はない。一級九社側の者が、かぶと会自体で受注予定者を決めることはしない意向を示し、日電インテクの担当者も、順番制で仕事を回すつもりはない旨を明らかにした(査第一一号証)という事実も、かぶと会結成の目的が競争回避に存しないことを示すものではなく、各社の技術力等の格差や個々の発注物件に対する受注意欲の程度等を考慮しつつ、物件ごとに個別的に競争回避のあり方を決定して行く方式を採ることを表現したものと理解することができる。なお、前掲証拠によれば、実際には貸し借りの関係が清算されるに至らなかったことが認められるが、《証拠略》によれば、それには、かぶと会設立後の経済情勢(円高及び国内経済の好況)により契約センター物件に対する各社の受注意欲が低下したことが多分に影響しているものと認められるから、これによって本件基本合意の存在に関する認定の当否が左右されるものではない。

査第一一号証中には、日電インテクとしては、話合いの機会があれば他の受注希望者の状況を一々さぐる必要もなくなり、便宜であるし、他社に日電インテクの立場を理解してもらえば、安んじて自社の相当と考える価格で入札できるからかぶと会に参加することにしたが、話合いによって自発的に受注を遠慮するつもりは全くなく、どうしても理解してもらえなければ競争入札となることもやむを得ないと考えていたと明言する部分があり、同人の考え方を前提とすれば、話合いによって受注予定者を決めることは、日電インテクが譲る気持ちがない以上客観的には不可能であったとみることもできないではない。しかし、右は同人ないし同社の内心の問題にすぎないから、これによって本件基本合意が有効に成立することが妨げられるものではない。なお、同社としても、さしあたり話合いで受注予定者を決定することにより、落札価格をある程度の水準に保つことができる利益があると考えていたことは前記のとおりである。

ロ  一級九社の受注能力、受注意思について

原告は、一級九社の受注能力が確定されていないのに本件基本合意が成立したというのは不当である。そもそも現場説明会に技術者を同行した業者がほとんどいなかったという事実に照らしても、大半の業者には受注する意思など初めからなかったというべきであると主張する。

なるほど、被告の指摘するとおり、かぶと会は、予めその存続期間が定められておらず、本件に対する被告の審査開始という偶発的な事由に促された結果解散に至ったものであるという事情はあるにせよ、同会設立当時に同会の会員に客観的に本件各物件を受注する能力がなく、かつ、解散に至るまでの七年の間に、その受注能力になんらの変化もなかったとすれば、それにもかかわらず本件基本合意が成立したとは考えられないとの原告の主張も理解できないではない。

しかしながら、そもそも本件審決は、かぶと会成立当時の状況では、一級九社にとっては、その技術的能力、入札対象物件に対する知識等からみて、直ちに日電インテクと競争をして受注することには困難があり、かつ、無理を押して受注すれば受注価格の低落を招くおそれがあったから、長期的視野のもとに、当面は協調して同社に受注させ、これを「貸し」として、将来はそれを返して貰う形で受注できると考えていたと認めたものであり(この認定が是認できることは前記のとおりである。)、客観的にはかぶと会会員の多くにとって従来から受注している業者を排除して自ら直ちに受注する条件は整っていなかったことを前提としているものである。そして、《証拠略》によれば、一級九社が契約センターに業者として登録したのは、それぞれに思惑(将来の営業の拡大を図るため、従来と異なった分野での受注の機会を作ることや、そのような受注に対応できる態勢を整備することなど)を持ってのことであり、その多くは、いずれは自ら受注したいとのもくろみを抱いてかぶと会に参集し、入札にも応じたものと認められる(もっとも、三和大栄については、その受注意思に問題のあることは前記のとおりである。)。しかも、仮に客観的には本件基本合意が成立した時点においては、運用保守の業務を受注することができない状態にある業者がいたとしても、その思惑を当然には知り得ない他社としては、契約センター発注物件が金額も大きく、継続性もあり、仕事として相当魅力があると考えられていた状況にあり、このような状況のもとでは、そこに受注競争の発生の可能性があると認め、互いに、他社がその程度に差はあれ、単独で又は別の会社と協力して受注する能力を備えているかも知れないと予測して臨むほかないわけである。《証拠略》によれば、実際にも、一級九社が相次いで業者登録をしたことに対し、日電インテクの側でも競争激化による受注価格の低下の危険を予想し、受注調整を図る必要があると考えていたことが認められる。また、原告の主張するとおり、実際には従前から受注していない会社は現場説明会に技術者を同行しない例が多かったとしても、それは当該物件に関する限り、その会社が受注意欲をもたなかったことを意味するにとどまるというべきであるし、一応入札説明会や現場説明会に顔を見せていることは、状況いかんで次の機会には受注意思を固めてくる可能性を示すものとも考えられ、そうであるからこそ、実際にも、受注意思の強い者、本件では多くの場合に日電インテクは、現場説明会等に参加した会員らに対し、常になんらかの形で意見の聴取を行い、その意向の打診を怠らなかったものと考えられる。なお、受注実績のない会社が受注意欲を高めるに至らなかったことについては、経済事情の影響もあったことは前記のとおりである。しかも、《証拠略》によれば、日電インテクのほかに、原告、大明電話及び日本コムシスの三社もマイクロウエーブ通信設備及び電話回線設備の運用保守についての受注能力を有していたことは明らかであり、このように、現実に複数のかぶと会会員について受注能力のあることが認められる限り、本件基本合意成立の基盤となり得る受注競争関係があったというのを妨げないというべきである。

ハ  個々の話合いの参加者及び内容

原告は、本件審決の事実認定が個々の話合いにおける参加者の特定を欠いている点を非難するが、少なくとも会員相互の間で実質的な話合いが行われたと審決で具体的に認定されている四件(すなわち、昭和五六年の横須賀・横浜基地、昭和五九年の横田基地、昭和六一年の三沢基地、同年の横田基地の各電話回線の運用保守業務)については話合いの当事者は特定されている(審決案三四ないし三六頁)のであり、かつ、右各物件について審決で認定された業者間で話合いが行われたことは、それぞれにつき本件審決の挙示する証拠によりこれを認定することができる。また、そのほかの受注意思の打診のみで終った場合についても、後記のとおり個々の発注物件に関心を示し、現場説明会に参加するなどした会員の間で受注意思の打診が行われたものであるところ、右意向打診の事実が本件基本合意の存在を推認する上で有する意味が後記のようなものであることにも照らせば、右以上に意向打診の当事者が特定されなければこれを本件基本合意の存在を推定する根拠となしえないものということはできない。

また原告は、本件審決において個々の話合いが行われたことが具体的に認定されているのは四件にすぎず、これらから遡って本件基本合意の存在を認めることはできないと主張する。しかし、現実に話合いが行われたのが四件にすぎないとしても、そのほかの物件についても、その都度現場説明会等の機会にかぶと会の会員が会合し、受注希望の有無の打診が行われたが、従前からの当該設備の受注者以外に受注を希望する者がなかったため話合いに入らずに終ったものであることは《証拠略》によって明らかであるから、同会会員の間では契約センター発注の全物件について話合いを行う体制が継続的に維持されていたものであり、この事実は本件基本合意の存在を推定する有力な根拠ということができる。

なお、原告は、受注予定者以外の者の協力を、そもそもそれらの者ははじめから受注意思がなかったのであるから、本件基本合意の立証との関係では意味を持たないようにいうけれども、その前提において理由のないことは先に判断したとおりである。

ニ  昭和五六年の横須賀・横浜物件について

原告の主張は、昭和五六年三月にかぶと会が設立され、本件基本合意が成立したのであれば、同年一一月に早くも原告と日電インテクとが熾烈な受注のための争いをするというのはいかにもつじつまがあわず、また、仮に右合意が成立していたとしても、同年一一月の時点、遅くとも原告の受注が決まった昭和五七年四月の時点で破棄されたとみるべきである、というものである。

しかし、かぶと会設立当時における一〇社の本件各物件に関わる業務の遂行能力にはかなりの格差があり、それに応じて個別の物件に対する受注意欲の程度もさまざまであったところから、機械的に受注の順番を割り振るという方法が採られなかったことは前記のとおりであるが、その当然の結果として、たまたま受注意欲の強い業者が複数現れるときには、その間の思惑の食違いから種々の駆け引きが行われ、それでも調整が着かなければ拘束関係がないままの状態で入札手続に移らざるを得ないことも起こり得る。そのような事態が予想され、また実際に生じたからといって、話合いによって受注予定者を決めようとする基本的合意が無意味なものとなるわけでないことはいうまでもなく、入札手続の前に話合いが行われたこと自体が重要であるし、競争者が二社に絞られることによってある程度の調整的効果はあったとみることもできる。《証拠略》によれば、原告の挙げる物件の受注に際しても、まず入札意欲をもつかぶと会会員の間で働きかけがあり、意見交換が行われたが、やがて日電インテクと原告との意見の調整が着かないことになって、二社以外の会員は右話合いの結果に則り、二社のいずれかが受注できるよう協力したものであること、その他の物件、とりわけ原告がその後も受注することになった横須賀・横浜の物件についても会員による話合いが継続して行われたこと、さらに、受注実績のない会員から不満の出た昭和六一年三月四日の大興電子における話合いにおいて、原告の担当者が出席し、今後は受注していない会員にも配慮して行きたいとの趣旨を述べていることが認められるところであって、これらの事実からも、原告を含む各社が話合いを有意義であると認め、昭和五六年一一月当時においてこれを破棄、中止することなど全く考えてはいなかったということができる。また、その当時、原告から会員各社に対して、以後の話合いには一切関わるつもりがないなどの意思が、どのような形にもせよ表明され、他の会員においてこれを了解したような事情を窺わせる証拠はない。

ホ  昭和五九年の横田基地物件等三件について

昭和五九年の横田基地物件

原告は、査第五三、五四号証の内容が矛盾しているとして批判するが、現場説明会およびこれに続いてされた話合いの時期については、第一回入札期限が昭和五九年一月一七日であることに照らせば、査第五三号証の初めの部分にあるとおり、昭和五八年一二月中旬であったと認めるのが相当である。同号証中には「昭和五九年の一月一八日が正しいと思います。」との記載があるが、それは、単に、同号証に添付されている個別管理費元帳中の「五八・一・一八」という記入日付の記載は「五九・一・一八」とすべきところを誤記したものと思われるという供述者の供述を録取したものにすぎず、同人が現場説明会の時期を昭和五九年一月一八日と述べた趣旨を録取したものではないと認めることができる。したがって、本件審決が右現場説明会及び話合いの時期を昭和五九年一月一八日としたのは事実誤認であるが、これによって本件における主要事実である本件基本合意の同一性が左右されるものではないから、右事実誤認は本件審決を取り消すべき事由とはならない。なお、査第五三号証と査第五四号証とでは、現場説明会、話合いの時期及び場所が食い違っているが、これは日時の経過による記憶違いによるものとみることができ、査第五三号証により訂正さた日時、場所の点は別として、話合いの経緯の大要を査第五四号証に記載されたところに拠った本件審決の認定は首肯することができる。

昭和六一年の三沢基地物件

昭和六一年の三沢基地物件についての話合いに仙台の大和電設が参加したことは例外的事象にすぎないから、本件話合いが本件基本合意に基づくものであるとの認定の妨げにはならないというべきである。

昭和六一年の横田基地物件

原告は、右物件についての話合いはかぶと会設立から五年も後のことであるから、話合いに加わった者が同会会員であったとしても、それは偶然そうであったにすぎないというのであるが、右主張は、同会設立後、契約センター発注物件の入札ごとに受注意思の事前打診ないし話合いが継続して行われて来たという事情を無視するものであって、失当である。

3  結論

以上によれば、本件基本合意の成立を認めた本件審決の認定は、間接事実の認定に関しても、間接事実から主要事実を推認する過程に関しても、実質的証拠を欠くものではなく、この点の原告の主張は失当である。

三  次に、原告が、本件審決に法令違反があると主張する点について判断する。

1  原告の行為には不当な取引制限となる性質が欠けているとの主張について

本件基本合意の趣旨及びこれに参加した各社の思惑については先に判断したとおりであり、とくに話合いをして受注予定者を決めることが、実際の契約額の水準を落とさないという意味において一〇社全体の利益に適うものであったところから、一〇社がかぶと会会員となって話合いの体制を維持したものであることも明らかである。また、本件基本合意は制裁規定などを伴うものではなかったものの、規範性を有していたと認められるし、十分に拘束的なものであったということができる。原告の指摘する昭和五六年の横須賀・横浜基地の物件についても、日電インテクと原告とは、話合いに利益を感ずればこそ最後まで話合いを重ねたものと考えられる。

原告は、本件各物件について、契約方法が特殊であり、その内容が発注者側の有利に決定される性質を有するから、本件基本合意はそもそも競争制限の性質を有しないとも主張するけれども、《証拠略》によれば、契約センターにおいては、昭和四三年頃から、それまで随意契約によって発注していた物件を次第にネゴシエーション方式によることに改め、昭和五四年以降はほとんどの物件がこの方式によって発注されるようになったが、同方式による場合には、できるだけ価格競争を反映すべき方針が定められていたことが認められるから、右方式のもとにおいても、入札に応じた者同士の間の価格競争関係は維持されていたということができる(《証拠略》によれば、競争関係にある業者は、受注者が決まった後に受注額に関する通知を受けることが認められる。)。なお、《証拠略》によれば、昭和五六年の横須賀・横浜基地物件についても、日電インテクは原告の強い受注意思に直面して、予定より一五パーセント程度低い額をもって入札せざるを得なかった事実を認めることができる。

2  除斥期間が経過しているとの主張について

原告は、昭和五六年一一月の横須賀・横浜物件の受注競争が行われた段階、遅くとも原告が入札した昭和五七年四月の段階で、本件基本合意は破棄され、すでに除斥期間が経過していると主張するが、右の当時において原告が本件基本合意を破棄、中止することなど考えてはいなかったこと、原告からかぶと会の他の会員に対して、以後は話合いには参加しないなどの意思を明らかにしたような事情が見当たらないことはさきに認定したとおりである(査第六七号証も、解散に至るまで原告がかぶと会の会員として話合いに参加する意思であったことを認めている。)。そして、本件における個々の話合いは、成立した一個の本件基本合意に基づいて継続してなされたものであり、個々の話合いについて除斥期間が経過しているかどうかを問うべきものでないことはいうまでもない。原告のこの点の主張は理由がない。

四  以上のとおり、本件審決の認定した事実は、これを立証する実質的証拠に欠け、また、右事実から主要事実を推認することは許されず、かつまた本件審決が法令に違反するとの原告の主張はいずれも理由がなく、本件審決の取消しを求める原告の請求は失当として棄却を免れない。

よって、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 加茂紀久男 裁判官 柴田保幸 裁判官 伊藤紘基 裁判官 曽我大三郎 裁判官 三村晶子)

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